サラリーマンは退職金で会社を買いなさい・その1

人生100年時代。退職後少なくとも10年は働かなければよい老後は送れないと言われるが。その選択肢はあまりに少ない。ここで、大胆な提案をしてみたい。思い切って会社を買って、社長になってみませんか?

誰でも会社の社長になれる

突然ですが、皆さんのなかに「社長になりたい」という願望を持っている人、あるいは持っていたという人はどれくらいいるでしょうか。

サラリーマンとして働くなかで、社長になることはひとつの「夢」であるはずです。もしあなたが大企業の社員なら、今いる会社の社長になることは考えていなくても、いずれ役員になり、関連子会社の社長になることを望んでいるかもしれません。

しかし現実は甘くありません。ただでさえ優秀な人材が集まっているなかで、そこまで出世するには相当な実力と運、そして根回しが必要です。40代になれば自分がどのあたりまで出世できるのか、おおよそ見えてきますよね。「自分はせいぜい課長か、よくて部長で定年を迎えるのだろうな…」と、漠然と諦めている人もいるのではないでしょうか。

60歳で定年、定年後再雇用制度を利用して65歳まで働いて退職、引退。それからは死ぬまでは余生……。それが現在の大多数のサラリーマンが辿る道です。しかし引退後あなたが、自社でも関連会社でもなく、これまで縁もゆかりもなかった会社の社長になれるとしたら、どうでしょうか。

今回私は皆さんに、社長になれる道をお教えします。60代で定年退職して終わるのではなく、中小企業の社長に“天下り”して、社長としてしっかりと老後の資産形成をしてから引退する……そんな道が、あるのです。

私は2005年に日本最大級のベンチャー投資会社「ソフトバンク・インベストメント」に入社しました。日本とシンガポールに駐在し、1000社を超える企業の発掘・精査、株式公開支援、M&A戦略、企業再生戦略などを行いました。

その後、兵庫県議会議員を経て、ロンドンで神戸ビーフのプロモーション会社の立上げを行い、2016年に、主に売上高30億円未満の中小企業をターゲットにした投資会社「日本創生投資」を起業。現在、総額30億円のプライベート・エクイティ・ファンド(PEファンド)を運用しています。中小企業を売買する事業承継(M&A)のプロフェッショナルとして社会問題を解決していこうと考えています。

こうした経験を通じて今、私が強く感じているのは、「日本には成長の可能性がある中小企業がたくさんある」ということ。またその一方で、後継者がいないという理由で、消滅の危機にある中小企業がたくさんある、ということです。ビジネスマンの「引退後」を豊かにすることと、日本の中小企業を活性化させること…この両方を叶えるのが、「会社売買」なのです。

80歳まで働く必要アリ?

ロンドンビジネススクール教授のリンダ・グラットン教授とアンドリュー・スコット教授の共著『ライフ・シフト―100年時代の人生戦略』が、世界中に衝撃を与えています。いま、ビジネスマンは生き方の変更を迫られていることは、ご承知でしょう。

本書の中で紹介されている将来の寿命に関する予測(米カリフォルニア大学バークレー校とドイツの学術機関マックス・プランク研究所の共同研究による)によれば、2007年にアメリカ、イタリア、フランス、カナダなどの先進国で生まれた子供の半数以上が104歳以上生き、日本で生まれた子供の半数以上が107歳以上生きるそうです。

また、現在20歳の人の半数以上が101歳以上、30歳の人の半数以上が98歳以上、40歳の人の半数以上が95歳以上、50歳の人の半数以上が92歳以上生きるといいます。

どうやら私たちは、これまで想定していたよりもはるかに長生きする可能性が高いようです。「人生80年」と思って生きてきたのに、実際は、100歳以上生きるかもしれないのです。それはつまり、リタイア後の生活が長期化するということ。定年退職後の余命を20年と見積もっていたものを、2倍の40年に見積もり直さなくてはなりません。

年金支給額が減り、退職金も期待できず、医療費や税負担が今後ますます上がっていくのに、60歳で退職、数千万円程度の貯金では、「悠々自適なセカンドライフ」などと呑気なことを言ってはいられません。もし年金のほかに夫婦で月々20万円の貯金を切り崩して使うとするならば、40年間で9600万円が必要になります。そのほかに、病気や怪我、子供、孫のイベントなど、何にどれだけかかるかわかりません。

そこから始まる40年もの長い老後を、“老後破産”することなく生き残るためには、現役時代を延ばすしかないのかもしれません。実際『ライフ・シフト』には、これからは、「教育→仕事→引退」という3つのライフステージのうち、2番目の「仕事」のステージが長くなり、引退年齢が70~80歳になるだろうと書かれています。

しかし現実には、日本のほとんどの企業がそんな年齢まで雇ってはくれません。退職後に再雇用制度を利用してもたいていは65歳までです。

飲食店には手を出してはいけない

確かに、大企業勤めの人で、役員になり、天下りで関連会社の社長になることができれば、引退を延長することができ、それなりの報酬と2度の退職金を貰えて安泰です。

それが叶わなかった場合、65歳から新たな就職先を探しても、よほど特殊な技能や資格を持たない限り、求人はほとんどないのが実情です。では60代で退職したものの、老後資産が十分にない人は、どうしたらいいのでしょうか。

私はしばしば、退職後の飲食店経営に夢を持つ人に出会いますが、断言しましょう。それだけは絶対に止めた方がいい。飲食業の経験がない人が、「コーヒーが好き」「ジャズが好き」「酒が好き」「料理が好き」などという趣味の延長で、喫茶店や居酒屋、バーなどを始めてしまうことです。失敗して財産をすべて失うどころか、借金を背負ってしまい、悲惨な末路を送る可能性が極めて高いです。

私はこれまでさまざまなビジネスモデルを見てきましたが、飲食店経営は最も難しいビジネスの一つです。立地の選定、資金繰り、店舗作り、商品企画、仕入れ、原価管理、製造管理、採用、人事管理、マーケティングなど、経営学のあらゆる要素がすべて詰まっているからです。それでいて店舗は固定されて動かすことはできず、食中毒や、持ち逃げなどリスクは多く、利益率は非常に低い。素人が安易に始めてできるようなものではないのです。

そもそも私は脱サラ起業には反対です。ベンチャーキャピタリストとして多くの起業家に投資をしてきた経験からいえば、新たに会社を創って軌道に乗せるというのはとてつもなく難易度が高い。日本では起業して5年後に残っている会社は15%、10年後に残っている会社は、たったの5%しかありません。

あなたが今まで培ってきた知識と経験をほぼそのまま生かすことができ、他社に比べて明確な優位性があり、最初から多数の顧客がついていて、初年度から黒字が確実であるのなら、起業もいいかもしれませんが、一つでも当てはまらないならば、やめた方がいいです。赤字がつづいて、将来の見えない恐ろしさに耐えることができる精神力を持っているひとはまれです。

そんな「ゼロイチの起業」より、私がお勧めしたいのは、知識と経験を活かせる中小企業を見つけ、個人でM&Aをして、経営を引き継ぐこと……つまり、「会社を買う」ことなんです。

日本はいま、「後継者不足」

はっきり言って、日本のビジネスマンは0から1を立ち上げるのは得意ではありません。ほとんど上手くいきません。一方で、すでに回っている事業をマネジメントし、10を15にしたり、100を110にするのは得意です。大企業にはそうした経験とノウハウがある人はたくさんいます。起業するより、10年以上生き残っている会社の社長をやる方が、はるかに現実的・効率的であり、向いているのです。

一般的にM&Aと聞くと、ある程度大きな規模の会社が、それよりも少し小さい会社を買収するイメージを持つ人が多いかもしれません。買収によってマーケットシェアを拡大したり、多角化したり、事業の一貫性を高めるなど、資金的余裕のある企業が取る成長戦略のイメージです。

しかし現実には、売上高数千万円から数億円程度の小規模経営の会社を、同じような規模の会社や個人が買収するといった、小さなM&A案件の数は増えつつあります。なぜなら今、会社を買って欲しいと考えている社長が多くいるからです。

現在、日本の会社は約420万社がありますが、そのうち大企業はわずか0.3%。1万2000社しかありません。日本の会社の99.7%を占めるのは、中小企業です。その中小企業の多くが今、後継者問題に直面しています。

日本の中小企業の多くは同族経営であり、かつては息子や娘婿、弟や甥が、家業として、社長を継ぐ親族内承継がほとんどでした。しかし今、子どもが跡継ぎになりたがりません。大学を出て、大手企業に就職し、それなりに給料をもらって都会で生活している子供たちは、わざわざ実家に戻って町工場や工務店や店舗などの経営を継ぐという道を選択したがらないのです。

中小企業の社長も、自分たちの子供に会社を引き継いでもらうことを強制したくないという意識が強くあります。このようにして、新陳代謝が生まれていないことから、日本の社長の平均年齢は高齢化の一途を辿り、1990年の54.0歳から現在は59.2歳に上昇しています。

帝国データバンク発表の『2016年社長分析』によれば、国内企業の3分の2にあたる66.1%が後継者不在で、その割合は上昇傾向にあります。社長の年代別に見ると、社長が60歳代の会社で54.3%、70歳代で43.7%、80歳以上でも34.7%が後継者不在。事態は深刻です。

中小零細であるほどこの傾向は顕著で、売上高10億円~100億円未満の会社で57.5%が、売上高1億円~10億円未満の会社で68.5%が、売上高1億円未満の会社で78.2%が後継者不在だそうです。

会社を売りたい人がいる

親族に跡継ぎがいない場合、次に従業員が事業承継者の候補に挙がりますが、それも簡単ではありません。中小企業は、社長がワンマン経営を行っていて、従業員には単純な業務しか任せていないような会社が多いからです。腕のいい職人はいたとしても、経営全般を任せられる人がいないのです。

こうした場合、健全経営で、財務状態が良く、今後も事業継続が可能であっても、「社長が亡くなるか、働けなくなれば廃業」という道を辿るしかありません。そんな中小企業が日本中に山ほどあるのです。

業績が低迷し、資金繰りも悪化して将来の展望も見いだせないような企業は、廃業した方がいい場合もあります。しかし財状状態が悪くなく、当面の資金繰りにも問題がないのに、後継者がいないので、廃業せざるを得ない…という会社も数多くあるのです。

言わずもがな、廃業という選択はできる限り避けたいものです。廃業すれば従業員を解雇しなければなりませんし、顧客や仕入れ先など、取引先にも迷惑がかかります。連鎖倒産を引き起こしてしまうかもしれません。そのような事態は、地域経済への影響も大きいことから取引銀行も、国も、地方自治体も、誰も望んでいません 。

後継者がいない社長にとって、相応の金額で買ってくれるのであれば、経営を引き継いでくれる他社や人に会社を譲りたいと考えるのは、当然のことなのです。そこで出てくる最後の選択肢がM&A、つまり「会社売買」なのです。こうした背景から今、多くの社長が会社の売却先を探しています。

では、縁もゆかりもない個人が、どのようにして会社を買うのでしょうか。そもそも、そんなボードゲームのようなことが可能なのでしょうか。じつは、現代において会社を買うことは、全く難しいことではないのです。これから、その手順についてお話しましょう。

サラリーマンは退職金で会社を買いなさい・その2「世の中には500万円で買える会社がこんなにあった!」