長男の嫁でも介護をがんばれば遺産がもらえる? 民法改正後にやるべき争族対策=山田和美

民法改正で相続はどう変わる?「居住権」ほか変更点と対策まとめ

もう「長年連れ添った妻が路頭に迷う…」は無くなる?

相続のルールを定めている民法の改正案が今年7月に成立し、今後2年以内に順次施行される見込みです(※編注:法務省は11月21日、「配偶者居住権」創設に関する規定の施行日を2020年4月1日と発表。居住権以外は原則2019年7月1日施行としています)。

このうち、新設される「配偶者の居住権を保護するための方策」については、以前も当メルマガで概要を解説しましたが、少し情報もまとまってきましたので、今回はあらためて解説していきます。加えて、「民法改正で、介護をした人が報われる?」という内容についてもお伝えします。

まず、今回の改正で新設される「配偶者の居住権を保護するための方策」には、「配偶者短期居住権」と「配偶者居住権」の2つが存在します。

それでは、1つずつどのような制度か見ていきましょう。

1. 配偶者短期居住権

例えば、夫である太郎さんが所有する土地建物に、太郎さんとその妻である花子さんが2人で暮らしていたとします。

太郎さんと花子さんには、一郎さんと次郎さんという2人の息子がいました。

この場合、太郎さんが遺言書などを残さずに亡くなってしまうと、自宅の土地建物を含めた太郎さんの財産は、いったん法定相続人である花子さん・一郎さん・次郎さんの共有になります。

このあとこの3名で、太郎さんの財産のうち「自宅の土地建物は誰がもらおう」「銀行預金は誰がもらおう」などと、決めていくわけです。

財産分けの話し合いである遺産分割協議は、まとまらなければ長期化する可能性があります。

この間、法律的には、花子さん・一郎さん・次郎さんの3人の持ち物である自宅不動産を花子さんがひとりで使えてしまっている、という状況です。このときの取り扱いについて、これまでの法律には規程がありませんでした。

そこで創設されたのが「配偶者短期居住権」です。

これにより、太郎さんの死亡から6カ月、または遺産分割協議がまとまるまでのいずれか遅い日まで、花子さんは無償で自宅に住み続けることができるようになります。

また、仮に太郎さんが「自宅の土地建物は長男の一郎に相続させる」との遺言をのこしていた場合でも、花子さんはいきなり追い出されてしまうのではなく、明け渡しの請求をされてから6カ月間は、その家に住み続けることができます

2. 配偶者居住権

上記の例で例えば、太郎さんの遺産は自宅不動産2,000万円預貯金2,000万円だったとします。

遺産分割協議は、相続人が全員納得をすれば(例えば妻がすべて相続するなど)自由に決めてよいのですが、それぞれが自分の権利を最大限に主張した場合の上限が、法定相続分です。

仮にこの例の場合、法定相続分で相続したとすると、花子さんの法定相続分は2分の1ですから、自宅不動産を相続したければ預貯金は1銭ももらえないことになります。これでは花子さんの今後の生活が心配ですね。

そこで登場したのが、「配偶者居住権」です。

配偶者居住権とは、自宅不動産の権利(この例では2,000万円)を、「配偶者が今後死亡まで自宅不動産に住み続ける権利(=配偶者居住権)と、「自宅不動産を所有する権利」に分けようという方策です。

それぞれどのような評価をするのかについては、まだ公表されていませんが、今後決まっていくところでしょう。

例えば、この例で「配偶者居住権」が500万円、「自宅を所有する権利」が1,500万円だとします。

そうすると、花子さんは配偶者居住権500万円を相続したとしても、法定相続分である2,000万円までにはまだ枠がありますから、亡くなるまで自宅に居住する権利とあわせて預貯金も相続できる可能性が高くなるのです。

「居住権は妻に、所有権は長男に」など柔軟な相続が可能

また、遺言書でも「配偶者居住権」について記載がきるようになりますから、遺言書作成の際の検討の幅も広がります

「自身亡き後、妻には亡くなるまで自宅は使ってほしいけど、その後、自宅は長男に相続させたい」という場合、妻には自宅不動産自体を渡すのではなく配偶者居住権を相続させ、自宅不動産の所有権自体は長男に相続させる、ということが可能になるためです。

「住んでいること」と「名義」はまったく別の話

この2つの居住権の創設は、この改正の目玉です。今後の情報も引き続きお伝えしていきます。

なお人道的な話は別として、法律的には相続に際し、「いま花子さんが住んでいるのだから、太郎さん名義だった自宅の土地建物は自動的に花子さんのものね」というルールはありません。

この点は改正後も同様ですから、誤解しないように注意しておきましょう。

介護をした人が報われる?

続いて、「民法改正で、介護をした人が報われる?」という内容でお伝えします。

まず結論からお伝えすると、相続のルールが改正されても、介護をした人が「自動的に」報われるようにはなりません

お世話になった人にしっかりと報いたいのであれば、のこす側がきちんと遺言書をのこしておくことが必要です。

大前提として、この点は忘れないようにしましょう。

蚊帳の外だった「長男の嫁」にも発言権が生まれる

では、今回の改正で、どのような点が変更されるのでしょうか。

最も大きな点は、相続人以外の親族が介護などをして被相続人の療養看護に寄与した場合、一定の要件のもとで相続人に対し金銭を請求できるようになった、という点です。

例えば、長男の配偶者や、子がいる場合の兄弟姉妹は原則として、相続人ではありません。

「相続人ではない」ということは、仮に遺言書などがない場合、とても熱心に介護をしていたとしても、相続で一銭も財産をもらえないどころか、相続に関して口を出す権利さえも一切ない、ということです。

それが今回の改正で、たとえ相続人ではなくても親族でさえあれば、被相続人の療養看護をした人は、相続人に対して「相続で私にもお金を分けてくださいね」と請求できるようになるということです。

このことにより、親族関係が円満なのであれば、例えば介護をした長男の妻に相続でいくらかの金銭を渡すことで、介護をした人に報いることが可能になります。

あくまで「請求できる」権利だけ

ただし、あくまでも「請求できる」という点がポイント。もらえる権利が生じる、ということではありません

そのため、仮に療養看護をした長男の妻が「相続で100万円ください」などと請求をしたところで、相続人側がそれは認められないと言えば、そこが争いの火種になってしまう、ということです。

また、この改正により介護に寄与した金銭を請求できるのは、あくまでも「被相続人の親族」に限定されているという点にも注意が必要です。

つまり、親族ではない人(例えば、友人内縁の配偶者)などは、この改正の対象外です。

そのため、冒頭でも記載をしたとおり、介護をしてくれた相手に本当に報いたいのであれば、のこす側がきちんと遺言書をのこす、ということは不可欠と言えるでしょう。

遺言書は必須

改正の内容が具体的になってきたことで、ニュースや新聞などで改正事項を耳にする機会も増えると思います。

そうすると、なんとなく「介護をすれば、自動的に報われるようになる」と誤解してしまうかもしれません。

しかしそうではなく、自動的に報われるものではないこと、本当に報いたいなら遺言書は必須であること、この2点をしっかりと覚えておいていただきたいと思います。