絶対知っておきたい、介護が始まったら実際どれだけ費用がかかるのか

前回のマネーシフトでは介護保険の基本について解説した。介護保険のサービスを受けるためには、要介護認定という手続きが必要であり、これがないと何も始まらない。また要介護認定された後は、ケアマネージャーとのやり取りが重要であり、これが介護の質を決定することになる。後編の今回は、気になる費用について探っていきたい。

(この記事は、連載「寿命100年時代のマネーシフト」の第16回です。前回までの連載はこちらから)

自己負担は1割、上限を超えた分は全額自己負担

現行の介護保険では、原則として1割の自己負担で介護のサービスを受けることができる(一定所得を超える場合には2割負担もしくは3割負担となる)。介護サービスにかかった費用が月10万円であれば、実際に利用者が支払うのは1万円で済む。

だが制度の財政を維持するため、サービスの利用には上限が設定されている。施設に入らず、在宅を中心にサービスを受ける場合、要介護1では月額約17万円、要介護2では約20万円、要介護5では36万円が上限となっている。これを超えた分については全額自己負担しなければならない。

例えば、要介護1で総費用が20万円だった場合、17万円分までは1割の自己負担で済むが、残りの3万円については全額支払う必要がある。このため利用者が最終的に支払うのは1万7000円プラス3万円で4万7000円ということになる。

総費用がいくらになるのかは、要介護者の状況とケアマネが策定した介護プランによって変わってくる。コストをかけてよいのであれば、自己負担分を多くすることで家族の負担は減り、逆にコストをかけたくないのであれば、自己負担分を減らし、その分を家族が負担する必要がある。ここは非常に重要な部分なので、経済的な状況も含めてケアマネと相談していくしかない。

〔PHOTO〕iStock

では平均的にはどの程度のお金が必要なのだろうか。

生命保険文化センターの調査によると、介護にかかった費用の平均月額は7.9万円となっている。これは全体の平均値なので介護レベルによってかなりの違いがある。

要介護1の場合には5万6000円、要介護2の場合には6万4000円、要介護5では11万2000円となっている。先ほど説明した自己負担分の金額と比較すると、3倍以上になっていることが分かる。介護レベルが低い場合でも数万円、介護レベルが上がった場合には10万円以上の出費を見ておいた方がよいだろう。特養など施設に入った場合には、金額はさらに上がり、要介護5で14万円程度の支出が必要となる。

ベッドに車椅子…「器具」にも保険がきく

上記は毎月必要となる支出だが、介護がスタートする段階で一時的に発生する費用というものもある。介護用ベッドを購入したり、介護がしやすいように住宅をリフォームするといったケースである。いざ介護となると慌ててしまい、こうした製品を一気に購入しがちだが、少し冷静になった方がよい。

介護保険の対象となっているのは、入浴の介助といったいわゆる典型的な介護サービスだけではない。介護ベッドの利用や車椅子、歩行器など、ハードウェアも適用対象となっている。保険の制度をよく知らないと、ハードウェアを全部自前で揃えてしまい、高額の出費になってしまうことがある。まずは公的な支援でどこまでカバーできるのか知っておくことが重要である。

ある事例では、妻が脳梗塞をきっかけに突然、要介護となり、冷静さを失ってしまった夫は、業者に勧められるまま、介護対応ができるように1000万円以上をかけて自宅をリフォームし、多くの備品を購入してしまった。本人は後になって、器具などに保険が適用できることを知ったそうだが、後の祭りである。

介護用のベッドが保険の対象となることも〔PHOTO〕iStock

経済的に余裕があれば、こうしたリフォームを行うのもよいだろうが、その後、発生する毎月の介護費用を考えると、多くの人にとってこの支出はかなりの負担となる。また介護レベルは刻々と変わるので、リフォームした設備がいつまで使えるのかは分からない。自己判断はせず、まずはケアマネと相談するのがベストだろう。

ちなみに前述の生命保険文化センターの調査では、こうした一時的な費用の平均値は約80万円であった。しかし一時金がゼロという人も17.3%いることを考えると、必須の支出というわけでもなさそうだ。自宅のリフォームや介護用品の購入については、くれぐれも慎重になった方がよい。

平均介護期間は4年11カ月だが…

介護費用の総額という点では、介護する期間が重要なファクターとなる。言いにくいことではあるが、介護が始まったらどの程度の期間、その状態が続くのか、ある程度の見通しを持っておいた方がよい。いわゆる介護地獄に陥る人の多くが、先行きが見通せないことによる不安心理が状況を悪化させているからだ。

介護の状態は人によってそれぞれなので、一概には言えないが、平均的な介護期間というのは実はそれほど長くない。同調査によると、平均的な介護期間は4年11カ月となっている。全体の約半数が4年未満の介護で済んでいるが、4年から10年未満というケースが29.9%、10年以上というケースも15.9%ある。

要介護者が高齢の場合には、そもそも余命が限られているので、介護期間はそれほど長期にはならない。一方、それほど高齢ではない段階で介護にシフトした人は、10年以上の長期にわたって介護が必要なケースが出てくる。ちなみに厚労省の調査でも、10年以上の介護が必要となったケースが2割、5年以上10年未満もやはり2割となっている。

前期高齢者のうちは、とにかく介護状態にならないよう留意することが最大のリスクヘッジということになるだろう。認知症を自力で回避するのは難しいかもしれないが、脳梗塞や転倒の防止なら、ある程度までは個人でも対処が可能だ。

家族の負担をどう考えるか

介護のコストを考える際には、上記のような金銭的な支出に加えて、家族の負担という見えないコストについても考えておく必要がある。

厚労省の調査では、要介護2程度までは家族の負担はそれほど多くないという結果が出ている。要介護1では全体の60%が必要な時に手を貸す程度で済んでおり、要介護2でも43.8%となっている(一方で要介護1であってもほとんど終日の介護が必要というケースが14.6%もあるので一概には言えない)。

しかし要介護3以上になってくると終日の介護が必要という割合が急増してくる。もし家族が全員働いているような世帯では、誰かが仕事を休まざるを得ないという状況に陥る可能性が高い。

2017年に新しい育児・介護休業法が施行され、介護休業については対象となる家族1人つき、3回を上限として通算93日まで取得できるようになった(例:約1カ月の介護休業を3回取得する)。だがこの制度はあくまで、介護の準備段階を支援するものに過ぎない。

当然のことだが、介護期間が93日で終わるケースはほとんどなく、この期間は、本格的な介護体制を整えるための準備に費やすものということになる。ケアプランの策定を行い、その後の介護の準備を行うための期間が通算で93日という意味である。

介護離職は避けた方がよい

ただ、同法が改正されたことで、介護休暇の取得などについても、ある程度、柔軟な運用が行われるようになってきた。これまで1日単位だった介護休暇の取得が半日でも可能となったほか、介護が終了するまで、法律上は残業の免除などが受けられる。最終的には勤務する会社の体制によるが、こうした制度をうまく活用することで、介護期間を乗り切っていくしかない。

これらのやり方ではどうしても対応できないという場合には、家族の誰かが仕事を辞めるという選択肢が出てくるのだが、日本の場合、再就職の条件が極端に悪くなることが多いので、介護による離職は避けた方がよいというのが現実だ。

かつて専業主婦世帯が多かった時代には、妻が親の介護を担当する世帯が多かったが、共働きの場合にはそうはいかないだろう。どちらかが完全に仕事を辞めてしまうのはリスクが大きいので、夫婦が交互に時間をやりくりし、その中でどうしても足りない部分については自己負担のサービスを活用するといった措置が必要となる。

いずれにせよ、介護プランをどう策定するのかがすべてを決める。介護が始まるタイミングがもっとも重要であり、ここでの対応が、その後の生活の質を決めるということをよく覚えておいて欲しい。