もう国や会社には頼れない。自分のお金と生活は自分で守る時代へ
投資を学ぶ必要はあるか?
私は、20代から60代まで一貫して相場に携わってきた投資経験と知識を皆さんにお伝えしている。投資の第一義の目的は、自分の力で収益を上げることだ。とはいえ、リターンを望めば、それ相応のリスクを取る必要がある。
果たして、そうしたリスクを取ってまで、自分でリターンを追求する必要があるのだろうか?また、そのためにコストをかけてまで学ぶ必要があるのだろうか?
そこで、皆さんに以下の質問を投げかける。ご自身もそう思っているのかどうか、考えてもらいたい。
<あなたは同意できるだろうか?>
- 日本は社会保障のシステムがしっかりしているので、国に任せていれば何があっても大丈夫だ
- 老後に頼る年金制度は、少子高齢化でも国の補助で安心だ
- 財政赤字は増税で解消される
- 日本はアメリカが守ってくれる
- 親方日の丸の公務員、または一流企業に勤めているので老後も安心だ
- 投信はプロが運用するので安心だ
そう思う人は、投資を学ぶ必要はないのかも知れない。それでも今回は、1つ1つの事柄を掘り下げながら、投資を学んで実践する必要性について解説したい。
(1)日本は社会保障のシステムがしっかりしているので、国に任せていれば何があっても大丈夫?
厚労省組合せモデル(平成27年度)では、40年間サラリーマンとして働いた夫(厚生年金第1号)と、専業主婦(国民年金第3号)を合わせた年金支給額は、月間22万1277円となっている。とはいえ、実際には満額を受け取る人は少ないので、現状受給者の平均は、14万7,872円+5万5,244円=20万3,116円だ。
しかし、この数値は年金支給額が減額になる前の受給者を含んでいる。今後、受け取る世代では、65歳から受給を開始して、この金額の約3分の2を受け取ることになる。
新規裁定65歳カップル平均:8万2081円+5万1891円=13万3972円
新規裁定60歳カップル平均:5万7458円+3万6324円=9万3782円
新規裁定70歳カップル平均:11万6555円+7万3685円=19万0240円
となる。
また、夫婦共に国民年金の場合は、厚生年金分の上乗せがないので、65歳カップル平均で5万1891円+5万1891円=10万3782円となっている。
2018年8月の現金給与総額は、1人平均27万6366円だった。この金額でも悠々自適とは行かないだろうから、退職後の生活を国からの支給額だけに任せていれば、相当厳しいものになるのは避けられない。また、今後は少子高齢化が進むので、この金額からさらに何割減になる可能性が高い。
そこで、政府は「生涯現役」を掲げ、現状の新規裁定の基準年齢を65歳から70歳に引き上げる画策をしている。年金制度の維持が目的なので、70歳引き上げ時の支給額は、現状の65歳時の支給額になるのではないか?そうなれば、その時に65歳から受給を始めれば、現状の割引率(年率7%)では夫婦平均で9万3782円となり実質的に大幅な減額となる。
ここに日銀が狙っているようなインフレが来れば、年金制度は年金組織のための制度となり、国民の生活を保証するものではなくなるのだ。
(2)老後に頼る年金制度は、少子高齢化でも国の補助で安心?
これはおかしい。何故なら、現状の年金制度は少なくとも黒字で、支給額を減額し続ける限り(社会保障の意味はほとんど成さないとはいえ)黒字であり続けることができる。
一方の国は大幅な赤字で、国の借金はGDP比236%と世界でも突出して高い。
赤字の政府が黒字の年金を補助するとすれば、増税によって民間から財源を確保する必要がある。
民間から吸い上げて民間に渡すことに、何の意味があるのだろうか?あるとすれば、「どこから取る」ことを決める政治家の権限が強まることぐらいだろう。
(3)財政赤字は増税で解消?
国の借金約1,300兆円は嘘だという人がいる。私はその発言の内容を知らないが、その嘘だというのは本当だろうか?
財務省の資料では過去20年近くの赤字は毎年40兆円規模で、赤字は借金で賄われているとしている。これだけで800兆円の借金となる。
※参考:国の支出と収入はどのように推移している?
そしてそれ以前から、少なくとも資料で確認できる40年以上も前から、日本の財政は赤字なので、国の借金約1300兆円というのは真実である可能性が高い。
2017年度の法人申告所得総額は前年度比11.5%増の70兆7,677億円と、8年連続の上昇で、記録が残る1967年度以降、初めて70兆円を超え、過去最高となった。一方で、申告法人税額は16年度比11%増の12兆4,730億円と、ピーク時1989年度の18兆6,412億円に大きく及ばなかった。
法人税率が引き下げられているためだ。申告件数は289万6,000件。そのうち黒字申告の割合は1ポイント増の34.2%で、7年連続の上昇となった。
これで分かる大事なことは2つある。
1つは、法人所得が過去最高でも、法人税収はピークの3分の2でしかないことだ。これは、1989年度の消費税導入時に、法人税率の引き下げが始まったので、企業の税負担が減ったことを意味している。
もう1つは、過去最大の収益は企業全体の約3分の1の企業だけで上げていることだ。残りの3分の2は赤字なのだ。しかも、「黒字申告の割合は1ポイント増」とあるように、これでも改善してきている。赤字企業は、一時は7割を超えていた。そして、こうした赤字企業の急増は、1989年度の消費税導入時に始まったのだ。
その理由は、消費税が売上に掛ける税金だからだ。一方の法人税は利益に掛ける税金だ。つまり、消費税は事業を行うことに逐一課税するもので、法人税はその成果だけに課税する。以下に述べるように、消費税導入で企業経営が苦しくなったのだ。
日本経済の縮小は「消費税」が原因
消費税導入前は、消費者が1万円使えば、企業の売上は1万円だった。ところが、消費税3%では実質9,700円に、5%では実質9,500円に、8%では実質9,200円になった。2019年10月からは実質9,000円に、売上が減少する。売上が減少すれば、コスト削減が始まり、人件費、研究開発費、設備投資などが削られる。
それでも消費者が1万1,000円以上使ってくれれば、実質売上は同じだが、1997年に消費増税率を5%に引き上げてからは経済そのものが縮小に向かい、消費者が使える金額も減っていった。これでは日本企業の国際競争力が激減するのも納得だ。
日本の税収のピークは1990年度の60.1兆円だ。つまり、消費税導入の一時的な効果で、税収増となったに過ぎない。
実は、その時でさえ財政は赤字だった。以降は、法人税を含む所得税が減ったことで、税収は平均約50兆円で推移、ボトムはリーマンショック後の38.7兆円だった。この間も歳出は増え続け、近年は約100兆円規模で推移している。これでは政府の借金が増える一方のはずだ。
過去30年の延長線上で考えるなら(2019年10月の消費税率10%への引き上げは、全く同じ流れ)、日本の財政赤字が解消する見込みはゼロだと断言できる。
日銀黒田総裁は「消費増税の経済への悪影響はないと思われる」と発言したが、同氏の発言はデータに基づくものではなく、常に「マインドに訴えかける」ものだ。こう言うことで、「消費増税の経済への悪影響がなくなる」と本気で(?)信じているのだろう。
(4)日本はアメリカが守ってくれる?
こうしたことはデータを基に話すことができないので、断定的なことは述べられない。とはいえ、歴史が教えてくれるのは、同人種、同民族、同文化の日本国内でさえ、大国が小国を守る時は、それ以上のメリットがある時だけだった。そして、メリットがある場合でもいずれは併合され、江戸時代に見られるように、支配被支配の関係が固定化した。
列強の植民地支配でも、植民地を「守る」戦いは、宗主国の利権を守る戦いだった。植民地が独立するには、宗主国と戦う必要があったのだ。
(5)親方日の丸の公務員、または一流企業に勤めているので老後も安心?
日本の財政赤字が解消する見込みはゼロだということを認識できるなら、また、日本経済そのものの成長が期待薄であるなら、ギリシャの公務員に起きたことや、これまでに破綻した一流企業に起きたことが、自分には関係がないと思わない方がいい。
この右肩下がりの流れを転換させるには、1989年度以前の税制に戻すことしかないと、私は見ている。
(6)投信はプロが運用するので安心?
投信を買って損した人は多いと思う。実際に、投資のプロが長期にわたって優れたパフォーマンスを上げ続けることは難しい。1つの大きな理由は、資産の規模が大きくなり過ぎると、自由な売買ができなくなるためだ。
そこで、安心できるファンドを選ぶことについて、私ができるアドバイスは、長期にわたって優れたパフォーマンスを上げているにも関わらず、資産の規模をそれほど大きくしていないファンドを見つけることだ。しかし、それは利益を分配しつつ、新規の募集を行っていないことを意味するので、事実上、あなたが買うことはできない。
また、何でもプロの方がうまいと思う人は、車の運転でも、自分でするのが恐くて、バスやタクシーに頼る人だ。もっとも、バスに乗るのは、自分で運転するよりもはるかにコストが安いが、それでも、プロだからといって事故を起こさないとは限らない。
自分の人生を自分で決めるために
上記、1~6の共通点にお気付きだろうか?自分の大事なことを、日本やアメリカ、企業、プロなど「他人任せ」にしていることだ。
投資を学ぶ大きな理由とは、自分の人生の大事を、少しでも自分で決定できるようにすることにある。そこで、次回のコラムは「自発的な投資の勉強で得られるもの」について、質問させていただく。
※本記事は、矢口新氏のメルマガ『相場はあなたの夢をかなえる ―有料版―』2018年10月15日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会に今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。
1954年和歌山県新宮市生まれ。早稲田大学中退、豪州メルボルン大学卒業。アストリー&ピアス(東京)、野村證券(東京・ニューヨーク)、ソロモン・ブラザーズ(東京)、スイス・ユニオン銀行(東京)、ノムラ・バンク・インターナショナル(ロンドン)にて為替・債券ディーラー、機関投資家セールスとして活躍。現役プロディーラー座右の書として支持され続けるベストセラー『実践・生き残りのディーリング』など著書多数。