年金額を増やす方法は?受給開始年齢の選択と繰下げ

人生100年時代の長生きリスクと年金

日本人の平均寿命は女性87.14歳、男性80.98歳で、年々延びてきています。

日本人の平均寿命は女性87.14歳、男性80.98歳で、年々延びてきています。

日本人の平均寿命は女性87.14歳、男性80.98歳で、年々延びてきています。また、各年齢の人があとどれくらい生きられるのかを表す平均余命を見ると、65歳時点では、女性が約24年、男性が約20年で、老後の期間も年々長くなっています。

長生きすることは喜ばしいことですが、生活費以外にも医療費などお金がかかることも多くなり、お金が足りなくなるかもしれないという家計的なリスクととらえることもできます。そこで、働けるうちは働いて収入を得ることや、リタイア後に一生涯受け取る公的年金を、少しでも多く受け取ることができるよう制度を活用していくことなどが必要になってきています。

老後に備えたつもりでも、長生きすることで資金を使い果たしてしまうといったことにならないよう、長生きすることがいわゆる「長生きリスク」にならないよう、対処方法を考え、備えていくことが必要になるわけです。

【INDEX】
受給開始年齢とその選択について
まずは繰上げ制度の仕組みを見てみよう
年金額を増やす繰下げ制度とは
継続就労と繰下げの活用で長生きリスクに備える
自営業者の受給開始年齢の選択

受給開始年齢とその選択について

自営業者の場合、国民年金への加入は原則20歳以上60歳未満です。一方、会社員が加入する厚生年金は70歳までが対象になります。さらに、自営業者が受給する公的年金は、国民年金(老齢基礎年金)のみですが、会社員が受給する公的年金は、厚生年金(老齢厚生年金)と国民年金(老齢基礎年金)の2階建てとなります。

公的年金の受給開始年齢については、国民年金は全員原則65歳からです。厚生年金についても原則65歳からですが、昭和36年4月1日以前生まれの男性(民間会社の女性は昭和41年4月1日以前生まれ)については、生年月日に応じて60歳から65歳までの間に「特別支給の老齢厚生年金」が支給されています。

年金の支給開始年齢 1

年金の支給開始年齢(1)

 

年金の支給開始年齢 2

年金の支給開始年齢(2)

長生きリスクに対処する方策の1つとして、国民年金加入者と厚生年金加入者に共通しているのは、「繰下げ制度」の活用です。

公的年金の受給開始年齢は原則65歳からですが、本人の選択により、66歳以降に遅らせて受け取ると1年あたりの年金額が増えます(繰下げ)。反対に65歳より早めて受け取ると1年あたりの年金額は減ります(繰上げ)。近年、公的年金の受給開始年齢を繰り上げる人は減り、反対に、繰り下げる人が増えはじめています。

国民年金では、新規裁定者(新規に年金の請求をした人)についてみると、平成24年度では18.5%の人が国民年金を繰り上げて受給していましたが、平成28年度では、国民年金を繰り上げて受給する人が9.2%となっており、年々減少しています。一方、国民年金を繰り下げて受給する人の割合は、平成24年度では1.2%であったものが、平成28年度では2.7%と、わずかではありますが増えています。

一方、特別支給の老齢厚生年金を含まない厚生年金の受給状況をみると、繰上げ受給率は0.2%で、繰下げ受給率は1.2%であり、繰下げ受給者が若干増えています(平成28年度の厚生年金保険・国民年金の「事業年報」より)。現在、老齢厚生年金を請求する人は生年月日から特別支給の老齢厚生年金、つまり65歳より前に支給される年金を請求する人が多く含まれます。したがって、65歳より前に年金をすでに受給している人が、65歳になった時点でいったん年金の受取りを中断し、66歳以降に受け取る繰下げ制度を選択することは心理的な影響もあり少ないものと思われます。

特別支給の老齢厚生年金を受給できない年代(男性:昭和36年4月2日以後生まれ、民間会社女性:昭和41年4月2日以後生まれ)については、65歳で初めて年金を請求することになるので、その時には、繰下げ制度の活用を今以上に検討することになるでしょう。

平均寿命も延び、60歳以降も働くことが一般的となり、長生きリスクに備えることが重要になった現在、生涯受け取ることができる公的年金最大のメリットを活かすためには、繰下げという制度は知っておいたほうがよいでしょう。

このように、公的年金制度には、繰上げ・繰下げの両制度が以前からありますので、原則65歳からの受け取りにはなりますが、60歳から70歳まで、好きな時期から受け取りを開始することができる受給開始年齢の選択制ととらえることもできます。もちろん選択するかどうかは自分の判断になります。その際、繰上げ・繰下げの両制度の仕組みや特徴、メリット・デメリットをよく理解したうえで選択することが重要です。では、次に、両制度の仕組みや特徴などをもう少し詳しく見ていきましょう。

まずは繰上げ制度の仕組みを見てみよう

繰上げをすると生涯減額された年金を受け取ることになり、65歳になっても本来の額に戻るわけではありません。

繰上げをすると生涯減額された年金を受け取ることになり、65歳になっても本来の額に戻るわけではありません。

年金を原則の受給開始年齢よりも早くから受け取ることを繰上げといいます。繰上げは、60歳から65歳までの希望するときから年金を受けることができます。ただし、早く受け取る分金額は少なくなります。減額率は、生年月日が昭和16年4月2日以降の場合は、繰上げ1か月あたり0.5%です。例えば、本来65歳から受給する老齢基礎年金を60歳0ヵ月で繰り上げる場合は、繰上げ月数は60月となり減額率は0.5%×60月=30%となります。また、61歳0ヵ月で繰り上げる場合は、繰上げ月数は48月となり減額率は0.5%×48月=24%となります。

【老齢基礎年金の繰上げ(イメージ)】

【老齢基礎年金の繰上げ(イメージ)】

(1)老齢厚生年金の受給開始年齢が65歳の人
《生年月日が昭和36年4月2日(女性は5年遅れ)以降の人》
この世代の人は、本来は65歳から老齢基礎年金と老齢厚生年金を受け取ります。60歳で繰上げをした場合の減額率は0.5%×60月=30%。つまり、本来65歳で受け取る額の70%を受け取ることになります。なお、繰上げは老齢基礎年金と老齢厚生年金を同時に行います。

(2)特別支給の老齢厚生年金(報酬比例部分)を61歳~64歳から受け取れられる人
《生年月日が昭和28年4月2日~昭和36年4月1日(女性は5年遅れ)の人》
この世代の人は、60歳代前半で特別支給の老齢厚生年金(報酬比例部分)、65歳から老齢基礎年金と老齢厚生年金を受け取ることができます。ただし、特別支給の老齢厚生年金(報酬比例部分)の支給開始年齢は、生年月日によって異なりますので、老齢基礎年金と老齢厚生年金で減額率が異なります。

繰上げをすると生涯減額された年金を受け取ることになり、65歳になっても本来の額に戻るわけではありません。この他にも、繰上げには、取り消しができないことや任意加入ができなくなるなど留意事項がいくつもあります。年金を繰り上げたい場合は、すべてを確認してから自分自身で慎重に判断し、選択するようにしましょう。

【老齢基礎年金と老齢厚生年金の繰上げ(特別支給の老齢厚生年金を受給できる人)】

【老齢基礎年金と老齢厚生年金の繰上げ(特別支給の老齢厚生年金を受給できる人)】

■年金額を増やす繰下げ制度とは

2004年の年金改革で導入された年金財政の枠組みにより、2017年9月に厚生年金保険料率が上限の18.3%に達しました。今後年金財政上の収入のメインである現役世代からの保険料はその料率が固定され、一定の収入の範囲内で年金の給付を行う仕組みが完成することとなります。したがって、保険料率が固定された以上、いわゆる支給開始年齢の一斉引き上げは年金財政上は必要ないものとなったわけです。

一方、今後は将来世代の給付水準確保のため、給付水準が調整され低下していくことになります。したがって、個人単位で働き方に合わせてなるべく長い期間働き、さらに年金の受給開始年齢を繰り下げて給付に厚みを持たせるなどの検討も必要になってくるでしょう。

(1)繰下げによる増額率
法律上、老齢年金の受給権が発生してから1年間は繰下げの申し出はできません。したがって、繰下げの申出は66歳以降に行い、年金額の増額は12月から60月の月単位で行われることになります。また、その増額率は一生変わりません。増額率は、生年月日が昭和16年4月2日以降の場合は、1か月あたり0.7%です。
増額率=(65歳に達した月から繰下げ申出月の前月までの月数)×0.7%

例えば、本来65歳から受給する老齢基礎年金を70歳で繰下げをした場合は、増額率は0.7%×60月=42%。つまり、本来65歳で受け取る額の142%を受け取ることになります。

【老齢基礎年金の繰下げ(イメージ)】

【老齢基礎年金の繰下げ(イメージ)】

なお、繰下げによる年金は、申し出のあった月の翌月分からの支給となります。70歳到達日以後の繰下げは、申し出時期にかかわらず70歳到達時点での増額率(42%)になり、70歳までさかのぼって決定され支給されます。

(2)老齢基礎年金と老齢厚生年金の繰下げ
老齢基礎年金と老齢厚生年金を受給できる場合、同時に繰り下げることもできますが、老齢厚生年金と老齢基礎年金について、それぞれに繰下げ時期を選択でき、老齢厚生年金と老齢基礎年金を別々の希望月で繰り下げることができます。なお、65歳前の特別支給の老齢厚生年金は繰下げ支給の対象にはなりません。あくまでも本来の終身年金である65歳からの老齢厚生年金と老齢基礎年金が対象になります。

【老齢基礎年金と老齢厚生年金の繰下げ(受給開始年齢が65歳の人)】

【老齢基礎年金と老齢厚生年金の繰下げ(受給開始年齢が65歳の人)】

また、当初繰下げをするつもりで65歳以降の年金を請求せずに待期していた場合でも、途中で方針を変えて普通に請求することもできます。その場合、繰下げの申出はせず、65歳にさかのぼって、本来支給の年金(増額なし)を請求することになります。さかのぼって請求した金額はまとめて支給されます。

(3)加給年金・振替加算
加給年金額や振替加算額は、繰り下げても増額されません。また、繰下げの待期期間中は、加給年金額や振替加算額のみを受けることはできません。この点については、繰下げをする際に注意するようにしましょう。

(4)老齢厚生年金の繰下げの注意事項
65歳以降も厚生年金保険の被保険者であった人が、66歳以降に老齢厚生年金の繰下げを希望する場合は、65歳時の本来請求による老齢厚生年金額から在職による支給停止額を差し引いた額が、繰下げによる増額の対象となります。報酬が高い人など65歳以降の在職老齢年金の対象となっている人の場合は、年金額全額が増額の対象とはならないので注意が必要です。

【65歳以降も在職していた人が70歳で同時に繰り下げた場合】

【65歳以降も在職していた人が70歳で同時に繰り下げた場合】

継続就労と繰下げの活用で長生きリスクに備える

60歳以降の働き方などによって年金の受給開始時期を自分で考え自分で選択する時代になるといえるでしょう。

60歳以降の働き方などによって年金の受給開始時期を自分で考え自分で選択する時代になるといえるでしょう。

前述のとおり、公的年金の繰上げや繰下げの仕組みをしっかりと理解したうえで、公的年金の受給開始年齢は、自分の働き方やライフスタイルに合わせて60歳から70歳までの間で「自分で選択することができる」と考えることができます。

高齢化が進む日本では意欲や体力が備わっていれば、できる限り長く働くことができる社会を目指すことが求められています。そのためにはもちろん、誰もが働きやすい環境を整備し、柔軟な働き方が可能な社会を構築することも必要です。実際、65歳までは働き続けることができるよう労働環境も整備されつつあります。また、65歳以降の就労については企業だけでなく地域社会での就労や専門性を活かした就労など多様な働き方が広がっていくものと思われます。今後は60歳以降の働き方などによって年金の受給開始時期を自分で考え自分で選択する時代になるといえるでしょう。

繰下げ制度を活用して受給開始時期を決める際には、65歳を基準に1年ずつ考えるとよいでしょう。年金額が142%に増額されるからといって、いきなり70歳までの繰下げ宣言をする必要はありません。自分の働き方やライフプランに合わせて、まずは1年ずつ年金を繰り下げるかどうか検討するとよいでしょう。

さらに、65歳から70歳の間の収入も考慮しましょう。この間に退職金などある程度の一時金を受けられるか、企業年金などが会社に整備されているか、さらには自分で個人年金を準備しているか、それらの額をこの間の生活費の一部に充てることができるかなども考慮するようにしましょう。もちろん、65歳から70歳までの間の就労収入を少しでも増やすことができればそれがよいでしょう。

これからの時代、自分自身の働き方に合わせて、一生涯受給できる公的年金については、繰下げ制度を活用し少しでも年金額を増やすことも検討するとよいでしょう。もし厚生年金に加入している場合は、70歳までは加入期間が延びる分、普通に受け取る年金額も増額されます。自分の状況や加入している年金制度、さらにはライフスタイルなどに合わせて、年金の受給開始時期は自分で決めるという考え方も必要になってくるでしょう。

働き方に合わせた公的年金の受給開始年齢の選択(例)イメージ

働き方に合わせた公的年金の受給開始年齢の選択(例)イメージ

 

自営業者の受給開始年齢の選択

最後に自営業者の受給開始年齢についてみてみましょう。自営業者については、定年などありませんので、いつまでも働き続けることは可能です。しかし、体力などの低下を考えるといつかはリタイアする時がやってくるかもしれません。自営業者にも当然ながら老後の所得確保が必要になります。

公的年金は国民年金のみとなりますので、上乗せの年金が重要となります。その際、会社員の年金制度の2階部分にあたる個人年金はまず準備しておく必要があるでしょう。これは終身年金が基本ですので、国民年金基金が選択肢としては有利になります。その他、国民年金基金には、5年、10年、15年の確定年金が用意されていますので、それらと組み合わせて、年金収入の組合せを考えるとよいでしょう。

以下の例は、自営業者で70歳まで現役で働きたいと考えている人が、老齢基礎年金は70歳まで繰下げをして、国民年金基金には、終身年金(A型)と確定年金(I型)に加入し、65歳から受け取る選択をした人の例になります。この例以外にも、働く期間と年金の受け取り方法、さらには上乗せ年金の選択方法はいろいろありますので、自分に合った選択をするようにしましょう。

【自営業者で70歳まで働き公的年金は70歳まで繰下げ、国民年金基金は65歳から受け取る例】

【自営業者で70歳まで働き公的年金は70歳まで繰り下げて、国民年金基金は65歳から受け取る例】

これからの時代、人生100年時代とも言われていますが、「生きがい」や「社会参加」といったことも大切になる時代です。65歳以降も働き続けることになった場合、自分の働き方に合わせて、公的年金の受給開始時期を選択し、繰下げ制度を活用して少しでも年金額は増やすという方法も選択肢の1つになるでしょう。また、就労による収入と個人年金や企業年金をどう組み合わせるかなど、自分の将来の年金の受け取り方について考えてみるとよいでしょう。

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