老後の収入源となる公的年金の受け取りは「原則65歳」からです。ただし、繰下げ受給・繰上げ受給の制度を利用すれば、「60歳から70歳まで」の間で受け取るタイミングを自分で選べます。みなさんはご存じでしたか?
いつまで働くのか、いつから年金が必要になるのかは人それぞれですので、老後のマネープランに合わせて年金の受け取り時期を選ぶのがベストです。
この記事では、年金の繰下げ受給・繰上げ受給とはどんな制度なのか、そしてどのくらいの人がこの制度を利用しているのかについて解説します。
年金の繰下げ受給とは
繰下げ受給は、原則65歳である老齢年金の受給開始時期を66歳以降に遅らせる制度です。
年金をすぐにもらう必要がないのであれば、2021年5月現在は最長70歳まで、2022年4月以降は75歳まで繰下げが可能です。繰下げを行うことにより、遅らせた月数に応じて年金額が増額されます。
老齢基礎年金・老齢厚生年金は同時に繰下げできるほか、一方だけを65歳に受け取ったり、受け取る時期を65歳以降でずらしたりすることも可能です。
繰下げ受給の増額率
年金の繰下げ受給を利用した場合、65歳から何カ月遅らせたかによって年金が増額されます。また、その増額率は一生変わりません。増額率の計算式は以下の通りです。
増額率=(65歳に達した月から繰下げ申出月の前月までの月数)×0.7%
例えば、1年間繰下げた場合は0.7%×12ヵ月=8.4%増、70歳まで繰下げれば0.7%×60ヵ月=42%増となります。2022年4月以降は75歳まで受給繰下げが可能になりますので、最大で84%、受け取る年金を増額できるようになります。
繰下げ受給のメリット
繰下げ受給のメリットは、受け取る年金額が増えることです。受け取る時期を先延ばしすればするほど、受け取れる年金の額は大きくなります。
65歳を過ぎてもフルタイムで働き続けるなど、年金がなくても生活ができるのであれば、繰下げ受給を利用してリタイア後に受け取れる年金額を増やすことができます。
年金の繰上げ受給とは
繰上げ受給は、繰下げ受給とは逆に年金の受給開始時期を65歳より早める制度です。年金を早くもらいたい場合、最短60歳から年金の受給をスタートできます。ただし、65歳より前倒しした月数に応じて年金の受給額が減ります。
また、老齢基礎年金と老齢厚生年金はセットで繰上げをしなければなりません。
繰上げ受給の減額率
年金の繰上げ受給を利用した場合、65歳から何カ月前倒しにしたかによって年金が減額されます。また、その減額率は一生変わりません。減額率の計算式は以下の通りです。
増額率=(65歳に達した月から繰下げ申出月の前月までの月数)×0.5%
1年受け取りを早めた場合は0.5%×12ヵ月=6.0%減、60歳から受け取った場合は0.5%×60ヵ月=30.0%減となります。
繰上げ受給のメリット
繰上げ受給のメリットは、年金を早く受け取って生活費の足しにできることです。
仮に60歳で定年退職をした場合、60歳〜65歳の間は年金が受け取れない無年金期間となります。老後資金が充分でなく、生活費が補えない場合には繰上げ受給が選択肢の一つになるでしょう。
「繰下げ受給」「繰上げ受給」している人はどのくらい?
では、実際に、繰下げ・繰上げ受給を選択している人はどのくらいいるのでしょうか。厚生労働省年金局「令和元年度厚生年金保険・国民年金事業の概況 」より、「繰上げ受給」「本来(65歳)」「繰下げ受給」それぞれの割合を見ていきます。
国民年金 受給権者の繰上げ・繰下げ受給状況
- 繰上げ:12.3%
- 本来(65歳):86.3%
- 繰下げ:1.5%
厚生年金 受給権者の繰上げ・繰下げ受給状況
- 繰上げ:0.4%
- 本来:98.8%
- 繰下げ:0.8%
現状では、年金の繰上げ・繰下げ受給を選択している人は多くはないようです。制度の認知度が低いことや、繰下げの場合は遅らせている間の経済的な余裕がなければならないことが理由として挙げられるでしょう。
繰上げ受給の注意点
先ほどの調査を見ると国民年金では繰下げの利用者が1.5%に対して、繰上げは12.3%と、繰上げ受給の方が比較的利用者が多いようです。
繰上げ受給には早く年金を受け取れるという大きなメリットがあります。その反面、以下のようなデメリットもあります。
- 一度繰上げ請求をすると年金が減額され、一生涯減額された年金額は変わらない
- 繰上げ受給をしている人は、寡婦年金が受け取れない
- 繰上げ請求をした後に発生した病気やけがで障害が残った場合、障害年金は受けられない。
- 繰上げ請求をした後に遺族年金の受給権が発生した場合、65歳まではいずれか一方しか受けられない。
このようなデメリットも理解した上で、慎重に利用を検討するようにしましょう。
まとめ
国民年金の場合であれば、1割程度の人が繰上げ受給を利用しているようです。
ただし繰上げ受給は「早く年金を受け取れる」というメリットの反面、障害年金や遺族年金などの利用に制約がかかるなどデメリットも多い制度です。
特に60歳に退職する方は、60~65歳が無年金期間となるため、年金の繰上げをしなくても大丈夫なようにしっかりと貯蓄をしておく必要があります。