


「下流老人」「老後破産」…なんとも辛い言葉が多くなった昨今。老後に必要なお金、貯められていますか?
「年金だけで暮らす」が夢物語になった日本社会
1年を通じて勤務した給与所得者の平均給与は「年収436万円」。ボーナスなどを含めない場合、年収436万円だと毎月の給与は36万円、手取りは28万円ほどになります。子どもを抱える世帯などには貯蓄が難しいことは容易にうかがえる金額です。
老後は年金暮らしで……と考えたいところですが、厚生労働省『平成30年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況』によると、厚生年金保険(第1号)受給者は3,530万人で、受給者平均年金は月額約14万6,000円(男性約16万5,000円・女性約10万3,000円)。「年金+α」での生活が求められていることは間違いないといえましょう。



老後不安といっても、数十年先のことなんてわからない……といった声も聞こえてくるもの。そこで厚生労働省『家計調査報告 2019年平均結果の概要』を見てみると、高齢夫婦無職世帯の家計収支の平均は、実収入が23万7659円。うち21万6910円が年金を主とした社会保障給付です。一方の支出は、消費支出が月23万9947円、非消費支出(税金や社会保険料など原則として世帯の自由にならない支出)が3万982円と、トータル27万929円になっています。
現状の高齢者世帯ですら、月に3万円以上の赤字に陥っている現実があります。それならば貯蓄を切り崩して生活するほかありませが、日本人の貯蓄事情に問題はないのでしょうか。
厚生労働省『2019年 国民生活基礎調査の概況』によると、全世帯では、「貯蓄がある」と返答したのは81.9%で、「1世帯当たり平均貯蓄額」は1077万4000円となっています。高齢者世帯では、「貯蓄がある」と返答したのは80.1%で、「1世帯当たり平均貯蓄額」は1213万2000円となっています。
全世帯の貯蓄額の細かい内訳をみていくと、最も多いのは「500万円~700万円未満」で9.3%、「1000万円~1500万円未満」が9.2%、「3000万円以上」が8.9%と続きます。4番目に多いのは「100万円~200万円未満」で7.5%です。「50万円未満」は4.6%と、決して少なくない数値を記録しています。
では高齢者に限った場合。
総務省統計局によると、高齢者世帯の貯蓄現在高は、2017年は1世帯当たり「2386万円」となっています。なお1世帯当たり平均の貯蓄現在高は、貯蓄額の高い世帯によって引き上げられます。そこで、貯蓄額の低い世帯から高い世帯へ順番に並べた際にちょうど中央に位置する世帯の値(中央値)をみると、2017年は1560万円となっています。
中央値で1560万円。なかなか高いハードルに感じる人も少なくないのではないでしょうか。しかし「老後に備えてお金を貯めなきゃ……!」と考える多くの日本人の負担になっているのは、「社会保障」という、これまた残酷な現実があります。
社会保障が「国民の負担になっている」残酷な皮肉
家計調査より作成された内閣府の資料によると、直接税・社会保険料等がもっとも多いのは45~54歳。実収入のおよそ20%にあたる金額が引かれています。勤労者世帯の社会保険料の推移を見ていくと、2006年、勤労者世帯社会保険料は1ヵ月あたり月4万円程度でしたが、2019年の時点で5万5000円にまで跳ね上がっていることが見て取れます。
老後に備えてお金を貯めようとしている現役世代に立ちはだかるのは、老後を支えるための社会保険料……なんとも皮肉なものです。
財務省ホームページ『これからの日本のために財政を考える』には以下の事実が記されています。
“2021年度予算案の国の一般会計歳入106.6兆円は、①税収等と②公債金(借金)で構成されています。
現在、①税収等では歳出全体の約2/3しか賄えておらず、残りの約1/3は、②公債金(借金)に依存しています。
この借金の返済には将来世代の税収等が充てられることになるため、将来世代へ負担を先送りしています。”
“社会保障は、年金、医療、介護、子ども・子育てなどの分野に分けられ、国の一般会計歳出の約1/3を占める最大の支出項目となっています。
社会保障制度の基本は保険料による支え合いですが、保険料のみでは負担が現役世代に集中してしまうため、税金や借金も充てています。このうちの多くは借金に頼っており、私たちの子や孫の世代に負担を先送りしている状況です。”
「将来世代へ負担を先送りしています」「私たちの子や孫の世代に負担を先送りしている状況です」と2度記していることからも、財務省の危機感が見て取れます。なお昨年からの新型コロナ感染拡大により、歳出は拡大。財務省ホームページにはその異様な跳ね上がり方が掲載されています[写真]。
コロナ終息後、何かしらの税負担を国民が強いられることは明らかです。将来への不安ますなか、国民の先行きは暗くなるばかりなのでしょうか。「自助努力」を促す裏には、国家の差し迫った危機が潜んでいます。