4月1日より「改正高年齢者雇用安定法」が施行され、より高齢者が労働に駆り出される時代が到来した。現在、実際に働く高齢労働者たちは何を感じ、現役世代は何を準備すればいいのか? 60歳で定年を迎えた後、今もさまざまな職場で働き続ける当事者たちの声を紹介していく。
日本人シニア技術者の需要がある海外に転職



シニア向けの技術職の場合、職場は工場というケースが多い。そのため、勤務先はほとんどが都市部ではなく郊外や地方になるという
高齢労働者の多くは国内で仕事を探すが、なかには海外に活路を見いだす人も。海外転職サイトで見つけたタイの日系企業で働く吉岡佳孝さん(仮名・64歳)もその一人。定年までは金属加工会社で工場主任を務めていた。 「妻には先立たれ、子供もすでに社会人でしたし、若い頃から密かに憧れていた海外で働くという夢を実現させようと思ったんです」 タイを選んだのは旅行で何度も訪れ、友人が住んでいたから。ただし、最大の理由として日本人向けのシニア求人の多さを挙げる。 「日系企業が多数進出する東南アジアでは、私のような現場の技術職でも指導役や監督としての50~60代の求人は結構あります。日本人の技術は世界でも最高水準で、10年や20年で差が埋まりそうにない分野も多い。言葉も現場仕事なのでカタコトでもなんとかなるし、日本語を話せる現地スタッフも多い。デスクワークの方ほど言葉のハードルは高くないですよ」
年収約315万円でプールつきのコンドミニアムに住める
ちなみに今の年収は90万バーツ(約315万円)でタイ人の大卒平均年収の2.5倍ほど。物価は3分の1ほどなので生活レベルは、日本にいたころよりも高いとか。 「今の収入でもプールつきのコンドミニアムに住めます。それに私が住むシラチャーという街は日系工業団地があり、住民に占める日本人の割合が世界一多い。日本の飲食店やスーパーもあるので生活も困りません。会社とは1年ごとの契約更新ですが、少しでも長く働き続けられたらと思っています」 海外と日本の技術差が埋まるには時間がかかる分野も多いはず。途上国なら我々が老後の時代でもまだ需要があるかもしれない。
健康寿命を延ばす散歩と筋トレのススメ
現役で働く60代は健康面での不安を語る人が当然ながら多い。週刊SPA!が60歳以上でも働き続ける男性100人を対象に実施したアンケートでも「定年までにしておけばよかったと思うこと」という質問に対し、「体力をつけておけばよかった」24人でが第2位にランクイン。



対象/60歳以上の働く男性100人(調査期間は3月22~26日)
では老後に備え、どんな運動が必要か。スポーツ医学と健康増進に詳しい筑波大学体育系教授の久野譜也氏に聞いた。 「定年後の60代以上で重要なポイントは2つ。まずは動脈硬化の予防。これは寝たきりになってしまう原因のNo.1で、心筋梗塞や脳卒中の原因にもなります。一度硬くなった動脈を軟らかくする唯一の方法はウォーキングなどの有酸素運動で、一日8000歩が目安。コロナ禍でリモート勤務の人も多いでしょうが、散歩をしてほしい。歩きためも効果は一緒なので、歩ける日に稼いで1週間の帳尻を合わせればOK。認知症の予防にもなります」
スクワットは老後に必要不可欠な運動
もう一つの重要ポイントは、やはり筋力トレーニングだという。 「40代以降は年に1%ずつ筋肉量が減り、基礎代謝が落ちて移動能力も下がります。60代に著しく“移動能力”が低下すると、自力で立ち上がるのに30秒~1分かかるなど活動が制限される。これを防ぐために筋トレが必要なのですが、上半身に比べて下半身のほうが大きな筋肉が多く筋力が落ちやすいため、下半身を鍛えましょう。 移動能力に重要なのは、歩く際に足の上げ下げをする大腰筋で、衰えると何もない場所でつまずいたり、歩行スピードも低下。大腰筋と太もも、お尻など大きな筋肉を鍛えるのに効果的なのはスクワットですが、膝を曲げる際に膝頭がつま先より前に出ると関節を痛めるので注意して、一度に10~30回、レベルに応じて行います。 イスの背につかまって行うのもおすすめで、週に3回が目安。腰痛や膝痛が緩和するほか、97歳でも筋トレで筋肉量が増えた事例があるので、遅すぎることはありませんし、早ければ3週間程度で効果を実感できると思います」 やはりスクワットは老後に必要不可欠な運動のようだ。仕事の合間にウォーキングや筋トレを続けることで、健康長寿が実現できそうだ。