「老後にインフレ突入」の衝撃度…高齢者の預貯金はボロボロに

長い老後生活を安心して送るには、資産形成が不可欠です。しかし、その実現にはさまざまなリスクが付きまといます。市場変動リスクをはじめ、貯蓄不足リスク、長生きリスク、インフレ・リスク…。本記事では、物価上昇により保有資産の購買力が低下する「インフレ・リスク」の対処法を考察します。資産運用会社のアライアンス・バーンスタイン株式会社で運用戦略を行う後藤順一郎氏が解説します。

預貯金に利子がつかず、物価は上昇するので…

インフレ・リスクを端的に説明するなら「物価上昇によって、保有資産の購買力が低下してしまうリスク」といいましょうか。しかし、この一文だけで概要をイメージできる方は多くないと思いますので、もう少し具体的に考えてみることにしましょう。

 

例えば、読者が現在100万円の預貯金を持っていたとします。今はそのお金で、100万円相当のものを購入できますね。そこで、少し極端ではありますが、インフレ率が10%、預貯金がゼロ金利の状況にあるとします。すると1年後、預貯金は100万円のままですが、インフレによって100万円だったものの価格が110万円になっています。つまり、現時点ならば100万円で買えたものが、1年後には買えなくなってしまう、というわけです。

 

このような事態に陥らないよう、インフレが起こったら、その分資産も増えるような資産運用を行う必要があるのですが、実は、その必要性は世代によって異なります。

 

現役世代の人々の場合、彼らの多くはある程度、給料がインフレに連動することで調整されます。また、多額の資産を有していない人が多く、保有資産の購買力を守ることのニーズは高くありません。

 

一方、定年退職後に資産を取り崩して生活しているシニア層にとっては、給料のようにインフレを調整してくれるものがない一方、保有資産は多額になりますから、インフレ・リスクの管理は非常に重要になるのです。

インフレは天災同様「忘れたころにやってくる」

インフレは先進国ではここ40年ほど大きな問題とはなっていませんが、過去を振り返ると、インフレはまさに天災と同様、「忘れた頃にやってくる」ことが多いのです。

 

そして、それがひとたび猛威を振るうと、保有資産に大きなダメージをもたらすことも事実なのです。実際、1900年以降の標準的なポートフォリオ(株式60%/債券40%)の実質リターンを見たところ、第一次世界大戦、第二次世界大戦、そしてオイルショックの時に、大きなマイナスになっています。

 

新型コロナウイルスへの対応で巨額の財政支出や金融緩和が世界的規模で行われている今、インフレが起こる可能性は十分にあります。特に資産の取り崩し局面に入っているシニアの投資家は、コロナによる健康へのリスクのみならず、インフレによる資産毀損のリスクが高まっていることも認識すべきでしょう。

株式は安全資産、現預金や債券はリスク資産!?

インフレ・リスクの観点から各資産を評価すると、株式は安全資産、現預金や債券はリスク資産とみなされます。なぜ、株式がインフレに対応できるのかといえば、企業はインフレになれば販売価格を引き上げることでインフレに見合った利益を確保でき、その利益に基づき価格が決まる株式もインフレに対応できると考えられているからです。

 

一方、株式は最終的にリターンが高いのでインフレに対応できているだけであり、短期的にはインフレに対応できないとの見方もあります。したがって、株式以外にもインフレ抵抗力のある資産を組み入れ、インフレに対する防御(ヘッジ)を強化するのも有効でしょう。

 

例えば、物価連動国債はその投資元本がインフレに連動する仕組みであり、インフレ・ヘッジの手段になりますし、不動産投資信託(REIT)も、インフレが生じれば賃料を改定できるため、インフレ抵抗力を持つとみなされています。また、商品先物や金などもインフレ時には価格が上がる傾向があり、多少組み入れるのは効果的です。

 

一方、インフレ・ヘッジができる資産は、総じて期待リターンが低くなる傾向があります。長期的には商品先物やREITは株式よりもリターンが低く、物価連動国債は通常の債券に比べてリターンが下がります。過度な保険が適切でないのと同様、過度なインフレ・ヘッジも避けるべきでしょう。